瀬戸内寂聴は運も強かった

小説家の瀬戸内寂聴さんが亡くなりました。

同じく小説家の林真理子氏が朝日新聞に寄稿しているのを読みました。

客観性

瀬戸内さんは今年の6月に対談したときはまだ元気だったこと、若いころから可愛がってもらったことなどが書かれていました。

瀬戸内さんはあるとき、作家というものは死んでしまえば次の年には本屋から本が一冊も亡くなってしまうものだと語り、

「私の本の中で残るのは、おそらく源氏物語の訳だけでしょうね」

と言ったとか。

確かにどんなすごい賞をとった作家も、亡くなってしまえば本屋からはそのうち本が消えてしまいます(図書館には残るでしょうが)。

林さんが言うように、自己分析、客観性の優れた人だったのでしょう。

運の強さ

瀬戸内さんの取材のねちっこさ、すごさには定評があるそうで、岡本かの子を描いた「かの子撩乱」の取材の際、岡本かの子の恋人であった医師に会うことに成功したそうです。

そこで彼から、「今はいつわりの生活で、かの子と暮らしていた時こそが本当の生だった」という言葉を引き出します。

林氏は「こういう書き手には幸運がついて回る」と表現し、若いときにデビューして書き続けた瀬戸内さんは多くのことに間に合った、と書いています。

これほどの長い期間にわたって書き続けるには文才のほかにも、体力、気力ともに充実していなければいけなかったでしょう。

作家としても優れていただけでなく、出家し、僧侶としての法話も大人気という、とても個性的な存在でした。

伝記

今年の6月に会ったとき、瀬戸内さんから自分の伝記を書くようにと言われたそうです。

「まだ話していないことがいっぱいあるのよ、本当よ」

と言われたそうで、その場で連載にすることを承諾してもらったそうです。

なのに亡くなってしまった。

本人自ら自伝を書くように勧められ、話していないことがいっぱいあるとまで言われていたのに間に合わなかった林氏。

林氏自身も運の強そうな人ですが、今回ばかりは運がなかったのかもしれません。

寄稿は、

「しかし私は間に合わなかったのである。口惜しくて残念で言葉が出ない」

という文章で終わっています。

読んでいただきありがとうございました。
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